2009年10月アーカイブ

遠山屏風のこと

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 5月5日は端午の節句。人形屋では、お雛さまと五月人形は書き入れ時、いろいろな種類のお飾りが売られています。

 これは、最もシンプルなスタイルの兜飾りです。

 兜は京都の粟田口清信師の作で、あごに結ぶ忍び緒は実際のように組まれています。兜の話はコラムでも書いているので屏風のことをお話したいと思います。
 絵画に額縁や表装がないと今一つぱっとしないように、お飾りも屏風一つでずいぶん印象が変わってきます。

 この屏風はやはり京都の松月堂師の作ですが、山々の描かれた「遠山屏風」と呼ばれるものです。江戸時代には「冬の遠山、夏の萩」という言葉があって、遠山や萩の絵の描かれた屏風や襖は縁起の良いものとされてきました。萩はたいへん繁殖力が旺盛なので子孫繁栄につながり、遠山は山々が連なることや、妊娠している女性のおなかを連想させるためか、両方とも新婚家庭にはことに喜ばれたそうです。

 この屏風は手漉きの本鳥の子の和紙に金箔の砂子(金、青金)で山が描かれています。もちろん本表装ですが、内側には障子のように格子が組まれ、下張りを重ねた上に丹念に仕上げられています。縁は桑で、どんすのヘリが施されています。
 いい兜はこういう屏風の前に飾ると、とても引き立ちます。自分のものにしたくなります。

 ちなみに、このお飾りの価格は全部で65万円ほどです。(後ろの掛軸は含みません。)

桃太郎さん

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 桃太郎さんのお話はだれでもご存知ですが、中国では桃は仙木といわれ、孫悟空にもでてきます。日本の神話でもイザナギノミコトが雷に桃の実を投げつけて追い払ったという話があって、神聖な果実とされてきました。こんなことから桃太郎の童話が生まれたといわれますが、ふつう私たちの知っているお話は、川を流れてきた桃を割ったら中から桃太郎がうまれたというお話ですね。でも、地方によっては、桃をおじいさんとおばあさんが仲良く食べたらいっぺんに若返って、できた子供が桃太郎というところもあるそうです。面白いですね。

 この桃太郎のお人形は、代々、名人といわれる人形師の幸一光師の作品です。犬、猿、キジは擬人化されていて、それぞれの特徴が生かされて、とても可愛い作品になっています。子供の姿ですが、なるほど、犬は犬みたいで、キジはキジみたいな髪型・しぐさになっているんです!一番右は、猿なんですよ。
 後ろののぼりは、冷泉家の節句飾りを参考につくられました。
 小さなお飾りですが、可愛らしさと威勢の良さが備わって、自分でもほしくなります。

 「いざ行け、桃太郎」幸一光作 巾50cm、奥行33cm、高52cm
 20万円です。木目込人形。

可愛いほうこ

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 五月人形というと、なぜか、いかめしい鎧や兜だけの飾りが多いですね。数十年前までは、鎧飾りの隣にはたいてい、その鎧を着る大将が飾られて、むしろ、この大将の方がメインだったのです。40代以上のお父さんなら覚えのある方も多いでしょう。宮家では、今でもお子様が誕生すると可愛い御所人形や天児(アマガツ)を贈られます。やはり、人の形をしたものが、子供を災厄から守るという考えなのでしょう。

 で、私はこういう可愛いお人形をお節句飾りにするのが、けっこう好きです。

ちゃんと作られたお人形なら、子供の姿をしたものでも、何十年も飾っていただけます。「毎年飾りたくなるお人形」が一番だと思っているからです。

 作者石川鈞は愛知県豊明市の作家ですが、若い頃から人形師を志して、頭師・味岡師に師事、修行の後、独立して「ほうこ人形」という独特の作風を確立しました。

 頭師(かしらし)修行をしておられるだけに、愛くるしい表情やしぐさが生き生きと表現されています。衣裳は奥様が草木染めで、正絹の白生地を染めて仕立てられています。石川師の天真爛漫な性格がよく出ている作品だと思います。黒丹の台と、のぼりをつけて威勢よく。

 悠々童子  20万円  間口75cm、奥行38cm、高72cm

お馬さん

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 小さな子は、動物の形のおもちゃが大好きです。端午の節句にも、お馬さんや張子の虎などが一緒によく飾られます。特に馬は、生まれてすぐ自分の力で立って歩くことから、丈夫に育ってほしいという願いをこめてよく飾られます。また、乗馬は武士の必須科目でもあったため、喜ばれました。また、虎は一日に千里を走ると言われ、言うまでもなくとても強い動物なので馬とならんでお節句によく飾られます。

 この飾り馬は、奉書馬とよばれるものの一つです。暴れん坊将軍が乗っているのと同じ姿をしています。胴体の芯は桐塑という、木粉の粘土のようなもので作られ、その上に楮の繊維をきれいに植え、ブラシで丹念に毛並みを作りだします。生漉(きずき)という製法です。タテガミやシッポは絹の繊維、腹の両側の金色の障泥(あおり)は、牛皮に金箔を押したものです。全体の飾りは正絹で、細部に至るまで昔ながらの製法でこしらえられています。作者の粟生(あおう)師は、「ぼくの馬はすべて自然の材料を使って、昔ながらの製法で作っているから、たとえ燃やしてもダイオキシンなどの有害なガスはでない」と言われます。

 サラブレッドではない、日本の馬を忠実に、かつ、気品のある姿に節句飾りに作られました。すごく、いいです。

作者 粟生穂洲(あおうすいしゅう)
桧網代に本漆の春慶塗の台付で6万2千円です。
間口50cm、奥行24cm、高38cm(台共の寸法)

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 最近は端午の節句のお飾りも、若いおかあさんが選ばれることが多くなりました。お雛さまはみなさん、かなり力をいれてお選びになるのですが、五月人形は兜や鎧が主流で、あまり興味もわかないし、第一、何がいいのか悪いのかちっとも違いがわからない、という方が多いですね。その気持ち、売っている身ながらよくわかります。

 兜の良し悪しの差は、材料の違いももちろんありますが、行程や手間のかけ具合による差がほとんどですから、できあがったもので判断をせまるのは、お客様には無理な話なんですね。職人さんと親密な関係のお店ならともかく、パートの社員の方が説明されるところでは、的確なご説明はできるはずもなく、どこのお店でも同じような説明しかすることができません。

 それはさておき、若殿のお飾りは種類は少ないのですが、品があっていいものです。このお人形の頭は、お雛さまでも最高級品にしか使われない 川瀬猪山師 の頭です。衣裳は正絹の本金糸を用いたもので、京都の雛人形師 平安清甫師 がこしらえられました。前の石川師のほうこ人形とはまた違った味わいのある、気品のあるお節句飾りです。

 いろいろな人形店からダイレクトメールでカタログが山のように送られ、五月人形って兜や鎧を屏風の前に置いたもの、とお思いの方が多いようですが、ちょっと前までは、ひげの大将だったり、お座敷のぼりが主体だったり、鍾馗さんや金太郎さんだったりと、とてもバラエテイーに富んだものでした。あまり、宣伝にまどわされず、ご自分の考えでお飾りをお選びになると端午の節句も、より意義のあるものになるのではないかと思うのです。

平安清甫作 頭=川瀬猪山  若殿
36万円(屏風・台など共)
間口88cm、奥行47cm、高48cm
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 踏歌祭(とうかさい、とうかまつり)は、平安時代から続く、正月の行事のひとつで全国の由緒ある神社などで今でも行われています。
 
 その祭りに使われる御物がいくつかあるのですが、この「冠」と「でんでん太鼓」はその中の一つです。今ではほとんど作られないものばかりですので、作るのにとても苦労しました。これまで使われていたものは江戸時代に作られたもので、さすがに傷みも激しく、この際新調しようというお話をいただいて制作したものです。

冠は楮(コウゾ)紙を何重も漆で貼り重ね、麻などで補強してこしらえられています。でんでん太鼓も、やはり和紙と漆を主にこしらえられています。

 制作には調査も含め、とてつもない手間がかかりましたが、できあがった御物はどことなく土の匂いのする、こう申しては失礼かもしれませんが、なんとなく愛敬のある、いいものに仕上がりました。
 これから数百年後に再び作りなおされる時、恥ずかしくないものになったのではないかと思います。

 このように、歴史的なものや神様や人の営みに関わるものを作らせていただくのは、苦労も多い反面、達成感というか、とても楽しい仕事でもあります。
 
 このような仕事も、人形屋の仕事の一部なのです。

「貝合わせ」と「貝桶(かいおけ)」

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 貝合わせってご存知の方も多いと思いますが、ハマグリの内側に絵を描いて、トランプの神経衰弱のように同じ絵を当てる遊びです。遊びと言いましたが、昔はとても格式の高い行事で、これを始める時は八坂神社はじめ神主さん数人の立会いのもと、おごそかに行われたようです。

 貝桶は50~60cmくらいの高さの八角形で、足のついた皿に乗っていて、重箱のように二段になったものもあります。

 貝合わせ、貝桶はその格式の高さと、貝は他の貝とは合わないことから貞節の証とされ、輿入れのときの最も大切なお道具とされていたようです。お雛さまの脇にも飾られるのはそういう訳なんです。

 これの新造のご依頼を受けた時は、たいへんうれしゅうございました。木工、漆、蒔絵、房、箔押し、描画など、伝統工芸の粋を集めたようなものです。ただ、数十年間というもの造られたことがなく、日本中探しても資料らしい資料がありません。そこで、徳川美術館さま始め、いろいろなところで教えを乞いながら完成したのが、画面のものです。

 貝合わせの絵は、藤原阿南画伯にお願いして描いていただきました。

 これを持ってお嫁入りされるお嬢さんはなんて幸せなんでしょう。貝合わせは正に、ご両親の愛情が形になったものなんですね。

うっとりするようなお雛様

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 「人形屋は商売なので、人形なんか見飽きてるでしょう」と言う方がいらっしゃいます。・・・・・・見飽きません。

  私たちも商売なので、商品としてお人形を見る部分もたしかにあるのですが、仕入れたり注文して作ってもらうときの基本は「自分でも欲しいかどうか」です。
  それで、毎年、出来あがってきたお人形を見ると、自分でも「いいな~」と思ってしまうものが、正直、けっこうあるのです。

  写真のお雛さまはそんな中の一つです。こうしたお雛さまには、屏風やお道具類もお人形の雰囲気をこわさないよう、とびきりのものを用意します。毎朝、これらのお雛さまを見るたびうっとりしてしまうのは、プロとしてあるべき姿ではないのかもしれませんが、しかたありません。

  これらのお雛さまが世界中のお人形の中でも、けた違いの美しさと完成度といわれるのは、数百年にわたる職人の研鑚によるものです。こうしたお雛さまが、中国で縫製された有名ブランドのバッグや軽自動車程度の金額で買えてしまうのは、日本の職人さんたちの地位の低さを語っているのですが、逆にいえば、お客様にとって、とてもお安い価格でお求めいただける時代だということでもあります。

  店の前を通るたび覗いていかれる方もいらっしゃいます。お気軽にご覧になってください。

張子の危機

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 お宮参りに用いられる犬張子があります。(コラム「犬張子の謎」参照)
  この犬張子の職人さんが、事情があって廃業されることになり、他にいろいろ職人さんを探しましたが全国でただ一人だったとみえて探し出せず、私たち業者は窮地におちいってしまいました。

 張子というのは、だるまやお面、虎などがよく知られていますが、犬張子だけはこの尾張・三河地域だけのものらしく、他の地域では職人さんがいらっしゃらないのですね。(小さな犬張子はあります) 結局、別の張子作りの方に業者でお願いして新たに作ってもらうことになり、事無きを得たのですが、一時は、犬張子というものが消滅してしまうのではないかと危惧を抱きました。

  張子の虎も今では作る方が少なくなりました。以前は、馬とともに、端午の節句にはよく贈られたのですが、扱うお店もだんだん少なくなっています。なくなってしまってからあせっても手遅れになってしまうので、ふだんからお客さまにご覧いただくようにしなければ、と思いました。

  首がゆらゆら動いて、小さな子供さんは喜びます。(怖がるかも)

※張子:木型に和紙を何枚も張りかさね、乾燥してから切り外して張り合わせ、塗装を施したものです。軽くて案外丈夫です。

犬筥(いぬばこ)

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 犬筥は犬張子ともいわれ、美智子皇后さまが愛子さまたちに贈られているように、古くから今に伝わるお守りの一つです。

  陶器や石膏のものはよくありますが、これは薄い和紙を何枚も漆で張り重ね、金箔や胡粉で仕上げた本物の犬筥です。和紙を十数枚張り重ねた上に、金箔も十数枚が張り重ねられており、とても堅牢にできています。
  金箔の肌はゆで卵の表面のようになめらかで美しく、職人の技の素晴らしさに思わず見とれてしまいます。

  お宮参りで用いられる犬張子も、この犬筥から派生したものといわれていますが、愛嬌のある表情や形状は共通するものがありますね。
  胴体がフタになっていて、中にお守りなどを容れられるようになっています。お雛さまとともによく飾られますが、男女を問わずお誕生のお祝いに用いられる格調高いお飾りです。 (コラム 「犬張子の謎」もご参照ください)

最近では、鳩山首相夫人が、この犬筥のブローチを付けていたことで、注目されました。
  
石黒一夫作 45万円(税別)

ぶりぶり

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 「謎々文庫」にも「ぶりぶりぎっちょ」として記載してありますが、謎の多い道具です。

多くの資料、文献を漁りましたが、確たる出自や用途など江戸時代の文献ですでにわからないと記されています。
でも、現在でも香合や茶道具などに、このぶりぶりの姿をとったものがよく見られます。
   
 このぶりぶりは八角形の瓜のような形のケヤキの胴に、胡粉、金箔をあしらい、松竹梅鶴亀を描きました。とても美しく格調高いお飾りに仕上がりました。
主にお正月や節句のお祝いの席に飾られます。

全長約27cm