
良いお雛さまには「流行(はやり)」はありません。

良いお雛さまには「流行(はやり)」はありません。

今回はこれまでの連載「重箱のスミ」とはちょっと趣が違い、重箱そのもののお話。
今回で、とりあえず「雛人形の重箱のスミ」は一休み、次回から「五月人形の 重箱のスミ」を始めます。引き続きお楽しみください。
※「しつらえ」は、「設え」と書きますが、例えばお正月に門松を建てたり、クリスマスにクリスマスツリー(モミの木)を飾ったりすることを指します。それぞれの行事によってある程度「様式」が決まっています。クリスマスに松の木を飾ることはありません。それを見ればだれでも何の行事か分かるのが「しつらえ」です。


いよいよ2月1日から徳川美術館で徳川家の雛祭り展が始まります。お雛さま、それを彩る雛道具の数々、それも超のつく一級品をご覧ください。
今年も、そのロビーに現代のお雛さまを飾り付けしてきました。大きなお雛さまに、貝合わせや犬筥、酒宴道具など、こちらも、今、製作可能なお雛さまの最高峰のひとつと言えるかもしれません。だんだんとこうした雛飾りも作れなくなってきます。
貝合わせや犬筥など、さまざまな雛道具をてんこもりに飾っても違和感がないのはなぜだろうと考えます。それは、おそらく、赤いもうせんのひな段、金(でなくてもいいけど)の屏風、ぼんぼりといっただれでもお雛さまといえば思い浮かぶ「様式」が基本にあるからだと思います。こうした様式にそったお雛さまであれば、ここにお子様のぬいぐるみや大事なおもちゃを一緒に飾ったって違和感はありません。基本的な様式があれば、たちまちそこは「雛祭り」の場になります。日常とは違う、単なるベビー用品ではない、様式を踏まえたお雛さまがあって初めて成り立つハレの日の舞台がそこに出現するのです。 ・・・・このお雛さまは、ご家庭に飾っていただくには大きすぎますけど・・・




同心円状に並べます。多い方が楽しい・・

一組の貝合わせを飾るときは左右違う絵にします
節句文化研究会では、こうした 面倒臭いけどなんだか楽しい節句のお話を出前しています。カルチャースクール、各種団体、学校などお気軽にお問合せください。→HP最後のお問い合わせメールからどうぞ
これまで、いくつかの和文化カルチャースクール様、ロータリークラブ様、徳川美術館様、業界団体様、中学の授業などでお話させていただいています。
※この記事の無断引用は固くお断りします。
お正月なので縁起よく、末広がりの話題です。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
お雛さまは縁起のかたまりといっても良いくらい、すみからすみまで気配りがされています。ですから、生半可な思い付きで様式を変えたりすると、見る人が見たときとても妙なことになる場合があります。さらに、不思議と「様式」に則(のっと)ったお雛さまというのは流行(はやりすたり)に左右されず、とても美しいものです。
そんなお雛さまの世界にいざなうのは、重箱のスミをほじくるような楽しいお話の数々です。どうぞお楽しみください。

雛人形の檜扇

実際の檜扇の飾り花
女雛が持っているきれいな扇を檜扇(ひおうぎ)といいます。名前の通りヒノキでできています。
まだ紙のない時代、長い祝詞(のりと)などを書き記すのに一枚の木簡(笏)では足りず、何枚かに書いてその一端を糸や金具で留めたのが始まりとされています。板の数は八の倍数とされ、女性の場合は八×五の四十枚、ここから偶数を嫌って一枚減らし三十九枚とされています。この板のことを橋と呼びます(お菓子の八つ橋と関係があるんだかないんだか・・)。雛人形の持ち物としての檜扇は、そんなにたくさんの枚数では作れないので十数橋になっていて、松竹梅、鶴亀などの縁起の良い絵柄が描かれています。
この両端に造花がつけられ、そこから長い色糸が垂らされています。この糸は緑、紅、白、黄、紫、淡紅の六色で、実際にはこの糸で閉じた檜扇をくるくる巻いて手に持ちます。で、そこについている造花ですが、雛人形には松、梅、橘がつけられます。良い雛人形には扇そのものも手の込んだ絵が描かれ、造花、糸も美しい絹糸で作られます。松、梅、橘は高倉流、山科流では松と梅だけといわれますが、いずれにしても松、梅、橘以外の造花は付けられないようです。
松、梅ときたら竹と行きたいところです。ここに橘がつけられるようになったのは、橘家と関係のある九条家が有職故実の流派であることが関係しているのかもしれません。
小さな雛人形の道具ですが、緑の松などが描かれていることが多く、これを持たせることによって紅や朱色系の多い女雛の装束にワンポイント補色が入り、全体を引き締める効果もある重要なパーツのひとつです。
節句文化研究会では、こうした 面倒臭いけどなんだか楽しい節句のお話を出前しています。カルチャースクール、各種団体、学校などお気軽にお問合せください。→HP最後のお問い合わせメールからどうぞ
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とうとう、このシリーズも50回を迎えました。1回目は5月です。
最初のころは短かったのに、だんだん興が乗ってきて長文になってしまい申し訳ありません。調子に乗って、まだまだ続きます。

犬筥
犬張子
古いお雛さまの両脇に犬筥が置かれていることがあります。枕のようなかたちの人のような貌(かお)をした犬で、上下に分かれて中にものを入れることができるようになっています。一般的なのは二十センチ前後で、大きなものは一メートルを超すものもあり、ほとんどが張子(紙製)で、金箔を押したり美しい吉祥文が描かれています。
現代でも作られていて、多くは素焼きに彩色されたものになっています。
犬は縄文時代の遺跡からも出土されているように、はるか古代から人間の友達です。人によくなつき、知らない者が来ると警戒して吠え、危険があれば主人を守って戦ったりもします。また、犬はお産が軽く育てやすいこともあって、「厄除け」「安産」の象徴となったと考えられています。
犬筥は「御伽犬(おとぎいぬ)」とも呼ばれ、嫁入り道具のひとつで夫婦の寝室にティッシュ箱として置かれたとも言われていますが、よくわかりません。几帳(きちょう)が風でひらひらしないように重石として使われたものが犬筥に発展したとも言われています。(「几帳の獅子も恐ろしげに・・・」出典の記憶不鮮明)
ティッシュ箱はともかくとして、犬筥が「箱」であるもっともらしい理由は、箱の中に赤ちゃんの爪とか髪の一部を入れ、近づいてくる「魔」を赤ちゃんから逸らすためというものです。お守りを入れることもあります。であれば、女の子だけでなく男の子でも飾られていいように思います。かつて、上皇后さまはお孫さまたち~悠仁さまにも犬筥を贈られたそうです。民主党政権時代に、菅総理の伸子夫人がときどき犬筥のブローチをつけていたのも思い出します。厄除けだったのでしょうか。お蔭で原発も大爆発を免れたのかもしれません。
文献にもあまり出てこないので断定はできないのですが、犬筥や几帳の重石(おもし)としての獅子は奈良時代頃から存在したと考えられています。重石の獅子が犬筥に発展したという経緯はわかりませんが、「几帳の獅子も恐ろしげに」とあるように、ちょっと怖いお顔だったので可愛らしいかたちにだれかが創作したのでしょう。この犬筥が後にお宮参りの「犬張子」になり、また一方、神社の「狛犬(こまいぬ)」に発展したということです。
「獅子」と「狛犬」は同じものなのか?この点については全国の狛犬を調べている方たちがいらっしゃるのでそちらにお任せするとして、現実のかたちとしては若干違います。いずれにしてもどちらも想像上の生物なので、言葉上のことにだけ触れておきます。
獅子とはライオンのことです。ここでいうのは獅子は獅子でも「唐獅子」のことです。健さんの背中の唐獅子牡丹の獅子です。歌舞伎の連獅子や、能の石橋でも出てきて縁起の良い動物のようです。唐獅子というくらいなので中国のライオンなのですが、中国にライオンはいません。しかし、平安時代の始め、慈覚大師(円仁。伝教大師最澄とともに初めて大師号を賜った)が唐へ渡った時、道中記に一行が獅子に出くわしたことが書かれています。これは、当時、インドへ仏教修行のため多くの中国僧が行き来していたので、その人がたちがインドライオンを連れてきたのではないでしょうか。想像上の動物とはいうものの実際にライオンを見たことのある中国人は何人もいて、それを描いたものが伝わったものではないかと思います。
もとい。こうして犬筥は赤ちゃんのお守りであるばかりでなく、今ではお雛さまのお守りのように飾られるようになりました。
※犬筥は向かって右が雄、左が雌とされています。細かいことをいうと、雌雄の違いはその首輪(ヒモ)にあります。オスは男結び、メスは女結びで結ばれます。とは云うものの、その違いを判別するのは難しく、古い犬筥を拝見しても私にはよくわかりません(笑)。
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※この記事の無断引用は固くお断りします。

ローボードに飾ったお雛さま
雛人形を飾る時期についてはいろいろ言われています。お嬢様の初節句の場合にはお披露目の意味も含めて1月から飾る方もいらっしゃいますが、一般的には2月の立春過ぎから2月末がよろしいでしょう。よく言われる雨水の日は2月18日ころですので、タイミング的にも良いですし、遅くとも2月末までに飾っていただければよろしいかと思います。
地方によっては、ひな祭りを「旧暦」や1ヶ月遅れの「月遅れ」で催されるところがあります。
もともと旧暦での行事ですし、季節感で言っても旧暦や月遅れの方が合致しています。
ですからお雛様の桜は満開になっています。
日柄を気にされる方は仏滅など避けられればよろしいですが、あまり気にしなくてもいいかと思います。六曜は旧暦に従って順につけられています。旧暦3月3日は必ず「大安」です。一方、5月5日は必ず「先負」です。
床の間があれば一番よろしいのですが、マンションなどにお住まいで床の間のないご家庭も多くなっています。棚の上、タンスの上など、ひな祭りのしつらえとしてお祝いのときに見やすい場所が適しています。ただ、キッチンの近くなどは、油などが飛ぶことがありますので避けてください。特に、焼肉などされるときは紙や布をかけていただくことをお勧めします。
方角を気にする方もいらっしゃいます。南向きや東向きといわれますが、それよりも「お守り」ですので、お子様やご家族を見守ってくれる場所がふさわしいと思います。
どうしてもママが飾ることが多いのですが、大きなお雛さま、特に段飾りなどはパパの力も必要になります。可能であれば、おじい様おばあ様もご指導係として参加されると、近づくひな祭りのワクワク感がより増します。このときに、少し大きくなったお子様には、どんなふうにお雛さまを購入したかとか、どんなに初節句が楽しみだったかなどお聞かせいただくと、お子様の自己肯定感を育みます。
大正時代までは男雛は向かって右側にならべるものでした。これは、向かって右側は上座、上手(かみて)と言われているからです。昭和天皇ご夫妻の写真が新聞に載ったとき、たまたま天皇が左になっていたため、当時の人形協会が男雛を左にしようと決めました。以来、男雛が左になっていますが、どちらでもいいかと思います。よく、京雛だから男雛が右、のように言われますが、「時代によって」というのが本当の所です。
一方、桜と橘はお雛さまには付き物ですが、これは、向かって右に桜、左に橘としてください。現在でも、御所や平安神宮などではそのように植えられているからです。
「明かりをつけましょぼんぼりに~」とあるように、ひな祭りは宵祭りです。ご親戚、友人などをお招きしてお食事をするのがメインとなります。また、「きょうはわたしも晴れ姿~」ともあるように、3月3日はハレの日です。ママたちもハレの日らしく、お着物なども改めます。
ここで気をつけなければならないのが、ママをはじめ女性陣の仕事です。なるべく、女性陣がなにもしなくてもいいように、男性陣は気を使いましょう。特にママはひな祭りだからと言ってお子さまの世話から解放されません。おっぱいやお風呂など普段と変わらない日常もそこにあります。お客様も長居をしないよう、また、酔っ払ったりは厳禁です。お友だちやおばあ様たちにもお手伝いいただいて、後でママがてんてこ舞いにならないよう、お片付けもしていただきましょう。
ひな祭りの始めに、お雛さまにもご馳走をお供えをして、お雛さまにお子様やご家族をお守りいただくようお祈りします。できれば、最後にそのお供えを皆さんでいただくと、なお結構です。
3月3日はお雛さまを片付けてはいけません。翌4日にもう一度簡単にお供えをして、1年間の無事を祈ってからしまいます。4日以降のお天気の良い=湿気の少ない時にしまって下さい。「祈る」というのが節句行事の本義です。それは、特定の神様ではなく、天の神様のような大きな存在に対する祈りで、何かの宗教によるものではありませんので、仏教徒でもクリスチャンでも雛祭りは催されるのです。

緋毛氈

かゆいの?
節句文化研究会では、こうした 面倒臭いけどなんだか楽しい節句のお話を出前しています。カルチャースクール、各種団体、学校などお気軽にお問合せください。→HP最後のお問い合わせメールからどうぞ
これまで、いくつかの和文化カルチャースクール様、ロータリークラブ様、徳川美術館様、業界団体様、中学の授業などでお話させていただいています。
※この記事の無断引用は固くお断りしま

桜と橘

紅白梅
節句文化研究会では、こうした 面倒臭いけどなんだか楽しい節句のお話を出前しています。カルチャースクール、各種団体、学校などお気軽にお問合せください。→HP最後のお問い合わせメールからどうぞ
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