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雛人形 いつ買う?

良いお雛さまには「流行(はやり)」はありません。

お雛さまの販売時期も終盤となりました。人形店によっては早々と五月人形の売り出しをしているところもあります。

当店では、3月3日まではお雛さまをお求めいただくことができます。それは、今日、お生まれになるお子様もいらっしゃるし、極端なことを言えば3月2日にお誕生のお子様もいて、どちらのお子様にとっても今度の3月3日は「初節句」であり、そうしたお子様のためのお雛さまをおあつらえするのが私たちの「努め」だからです。また、雪深い地方では「旧暦」でひな祭りを催すところもたくさんあって、そうした方々にとっては「そろそろお雛さまを買いに行こうか・・」というのが、この2月の中下旬なのです。どうぞお出かけください。

男のお子様のお節句「端午の節句」はまだ3か月近く先です。一般の五月人形メーカーの品と違って、いわゆる一点物を中心に製作している職人からは、いま、やっと新しく出来上がったものが到着しつつあります。2月末にはほとんど揃いますので、お雛さまがすんでからゆっくりとお出かけください。

2月22日から五月人形を飾り始めます。

雛人形の 重箱のスミ53

雛人形とお住まい

今回はこれまでの連載「重箱のスミ」とはちょっと趣が違い、重箱そのもののお話。

今回で、とりあえず「雛人形の重箱のスミ」は一休み、次回から「五月人形の 重箱のスミ」を始めます。引き続きお楽しみください。

 以前、すこしかかわりのある大手マンションメーカーの営業の方と「畳のあるマンションが少ないので、雛人形などを飾っていただく場所がないんですよ」というお話をしていたら、「最近は洋風のお部屋でないと売れませんから」と言われました。洋風?たしかに最近のマンションは和風ではないけれど、彼の言う洋風とはどんなものだろうか考えてみました。テレビで新築の戸建てのお家の紹介をしている番組があります。それを見ていても、マンションメーカーの言う「洋風」の部屋と同じ匂いがします。出演しているタレントの方が「ホテルみたいですね」と、たぶん、ほめ言葉として言っていました。そう、それは洋風ではなく「ホテル風」なのです。ホテルはいろいろな民族、文化、宗教の方々が利用しますのでなるべく偏りのない、装飾をなるべく削ぎ落した無国籍な内装にします。どうも、そのことを「洋風」とマンションメーカーはおっしゃっていて、また、若い方たちの新築の戸建ても同じような民族、文化、宗教色のない「ホテルのような」内装が好まれるのだと思います。

 文化は家(建物)と密接な関係があります。私たちの仕事は節句にかかわるしつらえをお誂えすることです。それは五節句(正月、雛祭り、端午、七夕、重陽)だけでなく、お盆や地域のお祭りをはじめとしたあらゆる伝統的な行事に関わります。そのしつらえのすべてが、和の建築様式を根本にしています。

 毎年お正月に、近くの神社へ早朝から「火縄(京都ではおけら火と呼ばれるもの)」をもらいに来る方たちのために御神火の授与のご奉仕にまいります。しかし、最近は「電磁調理器だから火をもらってもしょうがない」という方がふえてきました。火縄(おけら火)が意味をなくし、行事がなくなるのも遠い将来ではないでしょう。床の間や掛軸を知らない方もふえてきて、それが良いことなのかどうかも私にはわかりません。民族の文化を頑なに守ろうとすると不要ないさかいが起こることもあります。でも、ひな祭りなどは世界的に見ても実にゆるやかで、平和であってこその風習であり、その価値や評価は海外生活のある方は実感している方も多いでしょう。海外ではこの風習は羨望の的であり時にはニュースにもなります。

 ひな祭り、端午の節句、お盆、お正月、さらには七夕、クリスマスまで含めて日本には多くの季節のイベントがあり、それぞれのしつらえがあります(どこの国にもありますが)。「豊かな生活」には、そうしたしつらえは欠かすことができません。そのしつらえの土台となる「家(建物)」が、豊かさの基となる「文化」から離れつつあるように感じるのは思い過ごしでしょうか。

お雛様の極 徳川美術館

いよいよ2月1日から徳川美術館で徳川家の雛祭り展が始まります。お雛さま、それを彩る雛道具の数々、それも超のつく一級品をご覧ください。

今年も、そのロビーに現代のお雛さまを飾り付けしてきました。大きなお雛さまに、貝合わせや犬筥、酒宴道具など、こちらも、今、製作可能なお雛さまの最高峰のひとつと言えるかもしれません。だんだんとこうした雛飾りも作れなくなってきます。

貝合わせや犬筥など、さまざまな雛道具をてんこもりに飾っても違和感がないのはなぜだろうと考えます。それは、おそらく、赤いもうせんのひな段、金(でなくてもいいけど)の屏風、ぼんぼりといっただれでもお雛さまといえば思い浮かぶ「様式」が基本にあるからだと思います。こうした様式にそったお雛さまであれば、ここにお子様のぬいぐるみや大事なおもちゃを一緒に飾ったって違和感はありません。基本的な様式があれば、たちまちそこは「雛祭り」の場になります。日常とは違う、単なるベビー用品ではない、様式を踏まえたお雛さまがあって初めて成り立つハレの日の舞台がそこに出現するのです。  ・・・・このお雛さまは、ご家庭に飾っていただくには大きすぎますけど・・・

雛人形のお守り 犬筥入荷しました!

犬筥はもともと赤ちゃんのお守りなのですが、お雛さまのお守りのようによく飾られます。

そんな犬筥が、遅くなりましたが京都からいちどきにできあがってきました。

新作もあり、可愛い!

百数十種のお雛さまの中からお気に入りのお顔・衣裳のお人形を選んでいただき、お客様ごとに屏風やぼんぼりなどの雛道具を人形に合わせてお揃えいただくという楽しい作業をお手伝いします。その雛道具のひとつがこの犬筥です。ほかにも貝合せや様々な種類の桜橘または紅梅白梅、ふくら雀などの御殿玩具等々、伝統的で可愛らしい雛道具をお揃えしています。

老舗専門店でなければ見られない雛飾りをどうぞご覧ください。

只今無休営業中です。駐車場有り。

 

 

雛人形の  重箱のスミ 52

貝合わせ

 

同心円状に並べます。多い方が楽しい・・

一組の貝合わせを飾るときは左右違う絵にします

 

昔から、というのは平安時代よりももっと前から、という意味ですが、浜辺にはたくさんのきれいな貝殻がころがっていて、女の子たちにはとても魅力的なものだったでしょう。そんな貝殻を集めて「あたしの貝殻の方がきれいよ」といって競い合ったのが貝合せです。貝殻の内側に絵を描くようになる前には、貝殻そのものの美しさを競ったものでした。「合わせ」とは、一組の貝殻を合わせることではなく、美しさや優劣を「競う」という意味だったのです。他にも三月三日に行われる「鶏(とり)合わせ」や端午の節句に行われる「菖蒲の根合わせ」など、たくさんの「合わせ」の例があります。菖蒲の根合わせについては、葉や花ではなく「根っこ」の立派さを競うという、ちょっと現代とは違う感覚のものでした。一月には「若松の根合わせ」というのもありました。

貝合わせは、似たような模様のハマグリだけを使うことでゲームとしての楽しさが増し、内側に絵を描くことで答え合わせができるようになりました。平安時代には、三百六十個くらいの数で行われていたといわれますが、実際には二百~五百くらいまであったようです。貝合わせを行う前には日柄を占い、当日は数名の神官が審判(レフェリー)となって行われていました。ゲームというより、神事に近いものだったのかもしれません

貝をまずばらばらにし、並べる方(地貝)と、一つずつ出していく方(出貝)に分けます。地貝を画像のようにすべてうつぶせに同心円状に並べ、その中央に片方の出貝をひとつうつぶせに出し、そのお相手の貝を外側の模様で探します。内側の絵が合っていれば正解です。うつぶせに貝を並べるので「貝覆(おお)い」とも呼ばれます。

当店では内側に本金箔を押して絵を描いていますが、箔ではなく金泥を地に塗ったり、あるいは貝殻に直に絵を描いたものもあります。

この貝合せを行うのに必要なのが「貝桶」です。前にも「行器と貝桶」でご説明しました。数百という数ですので保管するとき底が抜けないよう二重になっており、がっちりした脚がついています。

貝合わせは、他の貝とは決して合わさらないことから夫婦和合の象徴とされ、貝桶とともに嫁入り道具の最も大切なものとされました。しかし、たいへん高価なもので公家や大名家でないと持つことができなかったため、骨董品として世に出てくることは滅多にありません。徳川美術館などには多くの貝桶貝合わせが収蔵されていますが、なかなかじかに見たり手に触れることが難しいもののひとつです。

「その手は桑名の焼き蛤」と言われるように、桑名はハマグリの名産地なのですが、現在は絶滅危惧種Ⅱ類に指定され保護されています。

縄文時代の貝塚などからもハマグリがたくさん出てきます。アサリやシジミもありますが、ハマグリが最も多いようです。これは、やっぱり「おいしい」からでしょう。大きくて食べやすいし、なによりおいしい!ハマグリのおいしさは貝の中でも別格です。そして、貝殻がきれい!他の貝とは決して合わないと縁起物の理由としてあげられますが、シジミでもアサリでも他の貝とは合いません。やはり、「おいしい」のと「きれい」が、貝合わせになり、結婚式などの縁起物としてお吸い物になったりする一番の理由だと思います。ちなみにハマグリの旬はちょうどひな祭りの頃です。

きれいと書きましたが、とれたばかりのハマグリの表面は薄い皮膜でおおわれていて、これをペーパーで削り落としたり、薬品で溶かしたりするときれいな貝殻があらわれます。けっこう、手間がかかります。

 

 

節句文化研究会では、こうした 面倒臭いけどなんだか楽しい節句のお話を出前しています。カルチャースクール、各種団体、学校などお気軽にお問合せください。→HP最後のお問い合わせメールからどうぞ

これまで、いくつかの和文化カルチャースクール様、ロータリークラブ様、徳川美術館様、業界団体様、中学の授業などでお話させていただいています。

※この記事の無断引用は固くお断りします。

雛人形の 重箱のスミ 51

謹賀新年

お正月なので縁起よく、末広がりの話題です。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

お雛さまは縁起のかたまりといっても良いくらい、すみからすみまで気配りがされています。ですから、生半可な思い付きで様式を変えたりすると、見る人が見たときとても妙なことになる場合があります。さらに、不思議と「様式」に則(のっと)ったお雛さまというのは流行(はやりすたり)に左右されず、とても美しいものです。

そんなお雛さまの世界にいざなうのは、重箱のスミをほじくるような楽しいお話の数々です。どうぞお楽しみください。

 

雛人形の檜扇

実際の檜扇の飾り花

 

女雛が持っているきれいな扇を檜扇(ひおうぎ)といいます。名前の通りヒノキでできています。

まだ紙のない時代、長い祝詞(のりと)などを書き記すのに一枚の木簡(笏)では足りず、何枚かに書いてその一端を糸や金具で留めたのが始まりとされています。板の数は八の倍数とされ、女性の場合は八×五の四十枚、ここから偶数を嫌って一枚減らし三十九枚とされています。この板のことを橋と呼びます(お菓子の八つ橋と関係があるんだかないんだか・・)。雛人形の持ち物としての檜扇は、そんなにたくさんの枚数では作れないので十数橋になっていて、松竹梅、鶴亀などの縁起の良い絵柄が描かれています。

この両端に造花がつけられ、そこから長い色糸が垂らされています。この糸は緑、紅、白、黄、紫、淡紅の六色で、実際にはこの糸で閉じた檜扇をくるくる巻いて手に持ちます。で、そこについている造花ですが、雛人形には松、梅、橘がつけられます。良い雛人形には扇そのものも手の込んだ絵が描かれ、造花、糸も美しい絹糸で作られます。松、梅、橘は高倉流、山科流では松と梅だけといわれますが、いずれにしても松、梅、橘以外の造花は付けられないようです。

松、梅ときたら竹と行きたいところです。ここに橘がつけられるようになったのは、橘家と関係のある九条家が有職故実の流派であることが関係しているのかもしれません。

小さな雛人形の道具ですが、緑の松などが描かれていることが多く、これを持たせることによって紅や朱色系の多い女雛の装束にワンポイント補色が入り、全体を引き締める効果もある重要なパーツのひとつです。

 

節句文化研究会では、こうした 面倒臭いけどなんだか楽しい節句のお話を出前しています。カルチャースクール、各種団体、学校などお気軽にお問合せください。→HP最後のお問い合わせメールからどうぞ

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※この記事の無断引用は固くお断りします。

お雛さまの 重箱のスミ㊿

犬筥(いぬばこ)と唐獅子

とうとう、このシリーズも50回を迎えました。1回目は5月です。

最初のころは短かったのに、だんだん興が乗ってきて長文になってしまい申し訳ありません。調子に乗って、まだまだ続きます。

 

犬筥

 

犬張子

 

古いお雛さまの両脇に犬筥が置かれていることがあります。枕のようなかたちの人のような貌(かお)をした犬で、上下に分かれて中にものを入れることができるようになっています。一般的なのは二十センチ前後で、大きなものは一メートルを超すものもあり、ほとんどが張子(紙製)で、金箔を押したり美しい吉祥文が描かれています。

現代でも作られていて、多くは素焼きに彩色されたものになっています。

犬は縄文時代の遺跡からも出土されているように、はるか古代から人間の友達です。人によくなつき、知らない者が来ると警戒して吠え、危険があれば主人を守って戦ったりもします。また、犬はお産が軽く育てやすいこともあって、「厄除け」「安産」の象徴となったと考えられています。

犬筥は「御伽犬(おとぎいぬ)」とも呼ばれ、嫁入り道具のひとつで夫婦の寝室にティッシュ箱として置かれたとも言われていますが、よくわかりません。几帳(きちょう)が風でひらひらしないように重石として使われたものが犬筥に発展したとも言われています。(「几帳の獅子も恐ろしげに・・・」出典の記憶不鮮明)

ティッシュ箱はともかくとして、犬筥が「箱」であるもっともらしい理由は、箱の中に赤ちゃんの爪とか髪の一部を入れ、近づいてくる「魔」を赤ちゃんから逸らすためというものです。お守りを入れることもあります。であれば、女の子だけでなく男の子でも飾られていいように思います。かつて、上皇后さまはお孫さまたち~悠仁さまにも犬筥を贈られたそうです。民主党政権時代に、菅総理の伸子夫人がときどき犬筥のブローチをつけていたのも思い出します。厄除けだったのでしょうか。お蔭で原発も大爆発を免れたのかもしれません。

文献にもあまり出てこないので断定はできないのですが、犬筥や几帳の重石(おもし)としての獅子は奈良時代頃から存在したと考えられています。重石の獅子が犬筥に発展したという経緯はわかりませんが、「几帳の獅子も恐ろしげに」とあるように、ちょっと怖いお顔だったので可愛らしいかたちにだれかが創作したのでしょう。この犬筥が後にお宮参りの「犬張子」になり、また一方、神社の「狛犬(こまいぬ)」に発展したということです。

「獅子」と「狛犬」は同じものなのか?この点については全国の狛犬を調べている方たちがいらっしゃるのでそちらにお任せするとして、現実のかたちとしては若干違います。いずれにしてもどちらも想像上の生物なので、言葉上のことにだけ触れておきます。

獅子とはライオンのことです。ここでいうのは獅子は獅子でも「唐獅子」のことです。健さんの背中の唐獅子牡丹の獅子です。歌舞伎の連獅子や、能の石橋でも出てきて縁起の良い動物のようです。唐獅子というくらいなので中国のライオンなのですが、中国にライオンはいません。しかし、平安時代の始め、慈覚大師(円仁。伝教大師最澄とともに初めて大師号を賜った)が唐へ渡った時、道中記に一行が獅子に出くわしたことが書かれています。これは、当時、インドへ仏教修行のため多くの中国僧が行き来していたので、その人がたちがインドライオンを連れてきたのではないでしょうか。想像上の動物とはいうものの実際にライオンを見たことのある中国人は何人もいて、それを描いたものが伝わったものではないかと思います。

もとい。こうして犬筥は赤ちゃんのお守りであるばかりでなく、今ではお雛さまのお守りのように飾られるようになりました。

※犬筥は向かって右が雄、左が雌とされています。細かいことをいうと、雌雄の違いはその首輪(ヒモ)にあります。オスは男結び、メスは女結びで結ばれます。とは云うものの、その違いを判別するのは難しく、古い犬筥を拝見しても私にはよくわかりません(笑)。

 

 

 

節句文化研究会では、こうした 面倒臭いけどなんだか楽しい節句のお話を出前しています。カルチャースクール、各種団体、学校などお気軽にお問合せください。→HP最後のお問い合わせメールからどうぞ

これまで、いくつかの和文化カルチャースクール様、ロータリークラブ様、徳川美術館様、業界団体様、中学の授業などでお話させていただいています。

※この記事の無断引用は固くお断りします。

雛人形の飾り方

ローボードに飾ったお雛さま

〇 いつ?

 ※初節句は早めに、通常は雨水~2月末に

雛人形を飾る時期についてはいろいろ言われています。お嬢様の初節句の場合にはお披露目の意味も含めて1月から飾る方もいらっしゃいますが、一般的には2月の立春過ぎから2月末がよろしいでしょう。よく言われる雨水の日は2月18日ころですので、タイミング的にも良いですし、遅くとも2月末までに飾っていただければよろしいかと思います。

地方によっては、ひな祭りを「旧暦」や1ヶ月遅れの「月遅れ」で催されるところがあります。

もともと旧暦での行事ですし、季節感で言っても旧暦や月遅れの方が合致しています。

ですからお雛様の桜は満開になっています。

日柄を気にされる方は仏滅など避けられればよろしいですが、あまり気にしなくてもいいかと思います。六曜は旧暦に従って順につけられています。旧暦3月3日は必ず「大安」です。一方、5月5日は必ず「先負」です。

 

〇 どこに?

 ※見守られる場所に。  キッチン近くは避けて。

  直射日光、エアコンの風のあたるところを避けて

床の間があれば一番よろしいのですが、マンションなどにお住まいで床の間のないご家庭も多くなっています。棚の上、タンスの上など、ひな祭りのしつらえとしてお祝いのときに見やすい場所が適しています。ただ、キッチンの近くなどは、油などが飛ぶことがありますので避けてください。特に、焼肉などされるときは紙や布をかけていただくことをお勧めします。

方角を気にする方もいらっしゃいます。南向きや東向きといわれますが、それよりも「お守り」ですので、お子様やご家族を見守ってくれる場所がふさわしいと思います。

〇 だれが?

 ※お子様が大きくなったらご一緒に

どうしてもママが飾ることが多いのですが、大きなお雛さま、特に段飾りなどはパパの力も必要になります。可能であれば、おじい様おばあ様もご指導係として参加されると、近づくひな祭りのワクワク感がより増します。このときに、少し大きくなったお子様には、どんなふうにお雛さまを購入したかとか、どんなに初節句が楽しみだったかなどお聞かせいただくと、お子様の自己肯定感を育みます。

〇 男雛女雛の左右

 ※どちらでも

大正時代までは男雛は向かって右側にならべるものでした。これは、向かって右側は上座、上手(かみて)と言われているからです。昭和天皇ご夫妻の写真が新聞に載ったとき、たまたま天皇が左になっていたため、当時の人形協会が男雛を左にしようと決めました。以来、男雛が左になっていますが、どちらでもいいかと思います。よく、京雛だから男雛が右、のように言われますが、「時代によって」というのが本当の所です。

一方、桜と橘はお雛さまには付き物ですが、これは、向かって右に桜、左に橘としてください。現在でも、御所や平安神宮などではそのように植えられているからです。

〇 どのように

 ※ひな祭りは宵祭り

「明かりをつけましょぼんぼりに~」とあるように、ひな祭りは宵祭りです。ご親戚、友人などをお招きしてお食事をするのがメインとなります。また、「きょうはわたしも晴れ姿~」ともあるように、3月3日はハレの日です。ママたちもハレの日らしく、お着物なども改めます。

ここで気をつけなければならないのが、ママをはじめ女性陣の仕事です。なるべく、女性陣がなにもしなくてもいいように、男性陣は気を使いましょう。特にママはひな祭りだからと言ってお子さまの世話から解放されません。おっぱいやお風呂など普段と変わらない日常もそこにあります。お客様も長居をしないよう、また、酔っ払ったりは厳禁です。お友だちやおばあ様たちにもお手伝いいただいて、後でママがてんてこ舞いにならないよう、お片付けもしていただきましょう。

ひな祭りの始めに、お雛さまにもご馳走をお供えをして、お雛さまにお子様やご家族をお守りいただくようお祈りします。できれば、最後にそのお供えを皆さんでいただくと、なお結構です。

3月3日はお雛さまを片付けてはいけません。翌4日にもう一度簡単にお供えをして、1年間の無事を祈ってからしまいます。4日以降のお天気の良い=湿気の少ない時にしまって下さい。「祈る」というのが節句行事の本義です。それは、特定の神様ではなく、天の神様のような大きな存在に対する祈りで、何かの宗教によるものではありませんので、仏教徒でもクリスチャンでも雛祭りは催されるのです。

 

連載 重箱のスミ ㊾

お雛さまの緋毛氈(ひもうせん)とナポレオン

 

お雛さまにつきものの赤い毛氈。この緋毛氈は一般的にフェルトでできています。江戸時代の初めころ中国から製法が伝わったようで、寛永(千六百二十四~千六百四十四年)時代に長崎のおくんちの山車(だし)に用いられたのが最初とも言われています。

フェルトは、タテ、ヨコの糸を互いに交差させて織るふつうの布と違い、不織布といわれるようにヒツジなどの毛を絡ませ圧縮することによって作られる布です。

享保時代(千七百十六~千七百三十六年)にインフルエンザ、天然痘、はしかなどが江戸で大流行し、当時、赤い色が疫病除けと信じられていたため、もともと厄除けの意味を持つ雛人形の下にも緋毛氈が敷かれるようになりました。

赤べこ、ダルマ、赤ミミズク、赤い金太郎など、子供の疫病除けに赤い玩具や人形もたくさん作られました。特に赤鍾馗(あかしょうき)は最強の疫病除けとして、人形だけでなく版画にも刷られて飛ぶように売れたそうです。

さて、毛氈の緋色(ひいろ)、つまり赤色は茜(あかね)を主にした染料で染められます。茜は血をきれいにしたり、解毒、強壮の効果があるとされる漢方薬でもある、やや紫がかった濃い赤い原料です。茜からできた絵具はMADDER(マダー)色と言って、やや透明感のある濃い赤で、ローズマダーとかピンクマダーという名で絵具になっています。この茜だけだと紫がかった少し暗い赤なので、紅花(べにばな)を混ぜて明るい緋色にします。紅花も漢方薬として用いられ、血行促進や皮膚病にもいいとされています。そこで、ふんどしや女性の腰巻など、肌に触れるものにはこの紅花染めがよく用いられました。遠くヨーロッパにもこの評判は伝わって、あの有名なナポレオンの肖像画、たいていお腹のあたりで服の下に手を差し入れていますが、これは、ナポレオンは疥癬(かいせん)に悩まされてお腹を搔いているところだそうで、服の内側の赤い色は日本の紅花で染められているという噂です。

ちなみに、紅花は別名「末摘花(すえつむはな)」で、源氏物語に出てくる女性の名前にも使われています。たいへん長い赤鼻の女性で「鼻の先(末)、少し摘んだら?」の意味を含ませているのではないかと想像しています。

こうした多くの意味を緋毛氈は持っているので、これだけでお子様にずいぶん面白い話を聞かせてあげることができます。緋毛氈はお雛さまには必須アイテムとも言えるものですので、ぜひお雛さまの下には敷いてあげて下さい。毛氈のあるなしで「雛祭り」のイメージは大きく違ってきます。「ハレ(晴)」と「ケ(褻)」という考え方を柳田国男が提唱しました。ハレとは節句や結婚などの祝いの日のこと、ケは普通の日のことです。欧米でもハレの行事には赤い毛氈を敷きます。レッドカーペットです。アカデミー賞でもそうですし、国賓が来るとき、飛行機のタラップからレッドカーペットが敷かれます。

昔から節句はハレの日の代表的なものでした。三月三日には上巳の節句、ひな祭りのしつらえとしてお雛さまを飾ります。その時に、普段は使わない緋毛氈(レッドカーペット)を敷いてその上にお雛さまを飾ることで、「ハレの日」であることをだれもが認識することができます。緋毛氈にはこうしたたいへん重要な役割があり、世界中で用いられています。

緋毛氈

かゆいの?

 

 

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※この記事の無断引用は固くお断りしま

連載 重箱のスミ ㊽

お雛さまと花

    ~造花の美~

 お雛さまにつきものと言ってもいい「桜」と「橘」。最近は省略されたり、洋花が飾られたりして影が薄くなった感がありますが実は侮れない力を持っています。よくできた桜橘や紅白梅はなかなかお目にかかることが少なくなりました。「可愛い」に寄り過ぎたお雛さまがふえてきたので、どうしても簡素なものや洋花などになりがちです。

 しかし、この桜橘にもちゃんと専門の職人がいて、中には素晴らしい出来ばえを見せてくれる方もいらっしゃいます。

 わが国の造花の技術は世界でも突出していて、それは、京都の祇園祭などの装飾や、舞妓さんのカンザシ、さらには公家や茶道などで飾られる節会や四季折々のしつらえによって育まれたことによります。そうした造花を「有職造花」と呼びます。

 絵画彫刻など、およそ美術工芸と呼ばれるものの制作者はどんな分野であろうと資質としてデッサン力が備わっているか、訓練を重ね、見たものを作品に反映する技術を身につけていることが不可欠です。造花の場合は、その植物の成り立ち、性質を熟知し自然の力を畏怖しながら謙虚に写し、咀嚼(そしゃく)、再構築した上で単なる写実ではなく、用途に合わせて創造することが必要です。自然のものを対象にすることの奥深さ、難しさでしょう。そうした飾り花は、ときとして主役となるお雛さまをも選びます。

 源氏物語絵巻の竹河に桜が出てきます。平安時代でも桜は喜ばれたようです。しかし、その時代に花と言えば「梅」のことを指していました。当時の御所の前庭には紅梅白梅が植えられていたといいます。京都御所は遷都された当時は、現在の御所より1,8キロメートルほど西の現在の西陣会館の近くに位置していました。十四世紀建武のころに現在の場所に移っています。そのときに植えられていたのが桜と橘といわれています。平安神宮でも同じように桜橘が植えられているのを今も見ることができます。これにならって、お雛様の様式として桜と橘が飾られるようになりました。

 御所も平安神宮も南向きの建物の左右に植えられており、向かって右が桜になります。手の込んだ造花の桜はほぼ満開ですが、西側に当たる左側にはつぼみを多く配しています。

 こうして、お雛さまには桜橘が飾られるようになったのですが、木目込人形などでは紅梅白梅が用いられることもよくあり、お雛さまにはこのどちらかがその由来に沿ったものであると言えます。

桜と橘

紅白梅

 

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