破魔弓 ~その一~
破魔って? (一)
古典的な破魔弓飾り
「破魔」とは「はま」の音に付けられた当て字です。では、「はま」とはなんのことなのでしょう?今でも北関東や九州など、円い鍋敷きや車輪のことを「はま」と呼ぶ地方があります。柳田国男の高弟、高崎正秀は、「はま」とはわらを円く編んだもののことを指し、それをころがして遊ぶのを「はまころ(はま転がしの略か?)」とよんでいたと言っています。また、キャスターや引き戸についている小型の車輪を「こま」と呼ぶ地域も多く、これも「はま」との関連がありそうです。朝鮮や中国で円いものをはまとかこまとか呼ぶ例があるかと調べましたが、どうもないようなので昔からの日本語のようです。
「はま」が円い輪のことを指すなら、なぜ破魔弓にその「はま」がついているのでしょうか。平安時代の蜻蛉日記に、夜、物音がしたので「帳に結いつけたりし小弓の矢をとりて」というシーンがあります。小さな弓と矢を几帳などに護身用としてぶら下げていたものと思われます。子供の遊びにこのような小弓で、円い「はま」を転がしてそれを射る遊びがありました。これが前述の「はまころ」ですが、かつては子供の遊びに使われるくらい、ごく普通に小弓が各家庭にあったのでしょう。「はまころ」の弓ということで「はま弓」、縁起の良い漢字をあてて「破魔弓」となったわけです。そして、それは蜻蛉日記にあるように護身用として実用の面もありました。護身用がまじない的な意味を付加され、「魔除け」「厄除け」として飾られるようになったのは自然な成り行きに思えます。
地方によって、「破魔弓」と「破魔矢」と二つの呼び方があります。尾張地方では、かつては「破魔矢」と呼んでいました。「破魔弓」は関東地方の呼び方だったような気がします。いまでは「破魔弓」が一般的になりました。弓と矢が組み合わさったものなので、どちらを主と考えるかということで、どちらでもいいように思います。神社でお正月に配られる絵馬のついた矢は「破魔矢」と呼ばれるので、これとの混同を避けるためにも「破魔弓」の方が都合がいいでしょう。
今では、男の子の初めてのお正月の祝いに贈られることが多いのですが、お子様のいるいないに関わらず、門や玄関には門松や注連縄(しめなわ)を、家の中の床の間(リビング)や床柱には破魔弓を飾るのが本来の姿です。初めてのお正月にお祝いしてもらった破魔弓は、大人になってもお正月のしつらえとして永く飾っていただくものなのです。
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