連載 五月人形の重箱のスミ 83

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甲冑 兜 ~その二十一~

  兜の櫃 ②

シンプルな様式の兜飾り

 少し兜櫃の話からそれます。 よくいつ頃飾っていつ片付けたらいい?とか、お雛様や五月人形はどちらの方角に向けて飾ればいい?というお尋ねをいただきます。つまり、守るべき「しきたり」のことを気になさっているのだと思います。

 飾る時期については、お節句当日の二~三日前で結構です。初節句の場合、せっかく用意したのだからとひと月位前から飾る方もいらっしゃいますが、それもOKです。日柄を気にされる方はそれに従ってください。お節句の当日、例えば今年の五月五日はたまたま「大安」ですが、仏滅だろうが先負であろうが、お節句行事はそういうことには左右されずにその日に行われます(ちなみに旧暦の場合には、三月三日は必ず先負、五月五日は大安です)。

 しまう時期については、端午であれば五月六日に一年の祈りをこめてお供えをし、その後、お天気の良い、しまう人に時間的な余裕のある日にとりかかってください。特にお雛さまについては昭和五十年くらいから「早くしまわないとお嫁に行き遅れる」という風説がひろまり、それが「三日のうちにしまわないと行き遅れる」となって、お母さんたちの悲劇が始まりました。きっかけはテレビである占い師が言ったそのひと言に過ぎませんでした。実際のご家庭で、夕方からお雛祭りのために友人知人ご親戚が集まりお祝いをした後、お片づけをし、赤ちゃんをお風呂に入れ、寝かしつけてからお雛さまを片付けるというのは絶対に不可能な話なのです。それを影響力のある方の不用意な発言で、それがさも昔からの「しきたり」であるかのように吹聴されて全国的に「悲惨なひな祭りの夜」が繰り広げられるようになったのです。

 まだ電気のない時代、雛人形や五月人形を片付けるのは絶対に「昼間」だったはずです。つまり、早くとも翌日です。中には片付けるのに一日では済まないお宅もあります。少し考えれば三日の夜に片付けるのはもともと「不可能」であり、「理不尽」であることは明確です。

 正しいしまい方は、節句の翌日、「また来年」という思いを込めて再びお供えをし、それを皆さんでいただき(直会の意)、その後、お天気の良い昼間にゆっくりしまう、というものです。もし、こわれたり汚れたりしている箇所があったら、このときに業者にお願いをしてください。

 飾る方角はどちらでもけっこうです。御家族を「見守る」ような場所であればけっこうです。京都御所のことを持ち出して「南向き」とか、一般的な床の間のある和室のように「東向き」と言われる方もいらっしゃいます。気にされる方はそのようにしていただければよいのですが、マンションにお住いの場合、現実として物理的に不可能な場合があります。雛人形も五月人形も何か特定の宗教によるものではなく、日本人の文化、民族的な信仰によるもので、それらは「天の神様」に向けて飾るものなのでどちら向きでもいいのです。ですから、クリスチャンの方々でも拒否感なくお雛様は飾っていただけるのです。「天の神様」はとても寛容です。

 気になる「しきたり」ですが、「様式」もその中に含まれます。この「様式」つまり「飾り方」について次回お話します。

 

節句文化研究会では、こうした 面倒臭いけどなんだか楽しい節句のお話を出前しています。カルチャースクール、各種団体、学校などお気軽にお問合せください。→HP最後のお問い合わせメールからどうぞ

これまで、いくつかの和文化カルチャースクール様、ロータリークラブ様、徳川美術館様、業界団体様、中学の授業などでお話させていただいています。

※この記事の無断引用は固くお断りします。

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