ちまきとかしわ餅 ~その一~
ちまき
ちまき 食べられません
ちまきは茅巻、粽と書いて、茅の葉で巻いたお菓子もしくはお餅のことです。粽は中国語で、後漢の風俗通義(二世紀末ころ)に初出の文字らしいです。
茅の葉で巻くと言いましたが、茅(ち、かや)とはチガヤをはじめススキ、ヨシ、オギ、カリヤス、マコモなどの総称です。ススキの姿が一番想像しやすいでしょう。みな似た姿をしています。かやぶき屋根に使うカヤもこれらの茎を用います。
よく、ちまきのいわれについては中国・楚の屈原の故事が引き合いに出されます。紀元前三百年ほどの実在の人物ですが、王への諫言が聞き入れられず泪羅(べきら)の淵に身を投じた政治家・詩人のことです。それを憐れんだ付近の人々が遺体が魚に食われないようにとちまきを滝つぼに投げ込んで供養したというお話です。しかも、その日が五月五日なので端午の節句にちまきを供えるようになったというお話です。粽という文字が初めて書物に載せられたのが二世紀末ごろですので、屈原の故事とは五百年ほどの開きがあります。そもそもの伝承では滝つぼに投げ込んだのは「お餅」ということなので、それがちまきになったのは相当時代が下ってからのことでしょう。たまたま事件が五月五日だったので、端午の節句の始まりのように書かれることがありますが、端午の節句はそれよりずっと前、紀元前十一世紀の周礼にすでにその言葉があるので端午の節句の始まりとは考えにくいです。物語として端午の節句とむすびつけられたのでしょう。
ちまきは細長い円錐型が多いのですが、地方によっては三角おむすびのような形のところもあります。民俗学の吉野裕子はこの円錐型のちまきは蛇をかたどったもので、厄除けや再生をあらわしていると断じています。日本や中国でも端午の節句の象徴のように扱われているたべものです。五月五日はもちろん旧暦でのこと、今の暦で言えば六月の初~中旬にあたります。初夏のむしむしした暑さと、色んな虫たちが出てくる季節です。餅菓子や混ぜご飯はすぐに悪くなったり、ハエなどもたかります。それを防ぐのに、防腐効果のある茅の葉で包むというのは必然的な知恵だったのだろうと思います。このことから、茅などには厄除けのようなちからがあると思われたのかどうか、全国の神社では夏越の祓え(なごしのはらえ)といって、この茅を編んだ大きな輪をくぐるという行事が今でも行われます。雑草といわれますが、なかなか役に立つ雑草です。
茅の仲間にマコモもあります。これはお盆のときにお仏壇にお供えをするとき、台にかけるムシロのようなものです。神事にも用いられるのですが、数十年前までは、端午の節句飾りの敷物にもよく用いられました。しつらえに清浄感が加わります。
節句文化研究会では、こうした 面倒臭いけどなんだか楽しい節句のお話を出前しています。カルチャースクール、各種団体、学校などお気軽にお問合せください。→HP最後のお問い合わせメールからどうぞ
これまで、いくつかの和文化カルチャースクール様、ロータリークラブ様、徳川美術館様、業界団体様、中学の授業などでお話させていただいています。
※この記事の無断引用は固くお断りします