連載 五月人形の重箱のスミ 99

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鯉のぼり ~その三~

 鯉のぼりとタモリさん

大空を泳ぐ鯉のぼり

名古屋節句飾りとして国の伝統的工芸品に認定されている

手染め、木綿の鯉のぼりです。

尾張、三河はこうした手染めの鯉のぼりの産地です。

 

鯉のぼりは「さげる」のではなく「あげる}

 少し前から、地方の自治体で流れる川の両岸にロープを渡してたくさんの鯉のぼりを「ぶらさげる」イベントが流行しています。それはそれで壮観と言えなくもないのですが、前項の橋本さんの言葉にもあるように、鯉のぼりは天に向かって跳ね上がるような勢いで「龍になる寸前の姿」を表したものであって、川面にぶらさげるものではなかったはずです。鯉は水の中を泳ぐのですが、鯉のぼりは先の滝廉太郎の「鯉幟」にあるように真っ青な大空、流れる雲を大海に見立てて泳ぐものなのです(海に鯉はいませんが)。

 こうしたイベントに触れるたび、なんだか釈然としない思いが残ります。何百匹もの鯉のぼりがぶらさがるさまは壮観ではありますが、小さくてもお父さんが自分のためだけに建ててくれた鯉のぼりの方が、何十倍も心躍る喜びとなることは言うまでもありません。

 かつて、タモリさんが徹子の部屋かなにかで言っていた言葉。「ぼくは姉ばかりのきょうだいの末っ子の男子で、親にかわいがられた記憶があまりない。けれど、何年か前、古いアルバムを見てたら、我が家に小さな鯉のぼりが建てられている写真があった。思い出した。あれは親父がぼくのために建ててくれた鯉のぼりだ。そう思ったらちょっと泣けました」。 他人のための鯉のぼりを見ても、この気持ちはおこりません。

 ご家族のお喜びがあふれているような五月の青空にひるがえる鯉のぼりは、百閒先生ではありませんが、ご家族はもちろん、お子様自身の心からの喜びとして、いくつになっても記憶に残り続けます。

 

節句文化研究会では、こうした 面倒臭いけどなんだか楽しい節句のお話を出前しています。カルチャースクール、各種団体、学校などお気軽にお問合せください。→HP最後のお問い合わせメールからどうぞ

これまで、いくつかの和文化カルチャースクール様、ロータリークラブ様、徳川美術館様、業界団体様、中学の授業などでお話させていただいています。

※この記事の無断引用は固くお断りします

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