連載 重箱のスミ ㊽

お雛さまと花

    ~造花の美~

 お雛さまにつきものと言ってもいい「桜」と「橘」。最近は省略されたり、洋花が飾られたりして影が薄くなった感がありますが実は侮れない力を持っています。よくできた桜橘や紅白梅はなかなかお目にかかることが少なくなりました。「可愛い」に寄り過ぎたお雛さまがふえてきたので、どうしても簡素なものや洋花などになりがちです。

 しかし、この桜橘にもちゃんと専門の職人がいて、中には素晴らしい出来ばえを見せてくれる方もいらっしゃいます。

 わが国の造花の技術は世界でも突出していて、それは、京都の祇園祭などの装飾や、舞妓さんのカンザシ、さらには公家や茶道などで飾られる節会や四季折々のしつらえによって育まれたことによります。そうした造花を「有職造花」と呼びます。

 絵画彫刻など、およそ美術工芸と呼ばれるものの制作者はどんな分野であろうと資質としてデッサン力が備わっているか、訓練を重ね、見たものを作品に反映する技術を身につけていることが不可欠です。造花の場合は、その植物の成り立ち、性質を熟知し自然の力を畏怖しながら謙虚に写し、咀嚼(そしゃく)、再構築した上で単なる写実ではなく、用途に合わせて創造することが必要です。自然のものを対象にすることの奥深さ、難しさでしょう。そうした飾り花は、ときとして主役となるお雛さまをも選びます。

 源氏物語絵巻の竹河に桜が出てきます。平安時代でも桜は喜ばれたようです。しかし、その時代に花と言えば「梅」のことを指していました。当時の御所の前庭には紅梅白梅が植えられていたといいます。京都御所は遷都された当時は、現在の御所より1,8キロメートルほど西の現在の西陣会館の近くに位置していました。十四世紀建武のころに現在の場所に移っています。そのときに植えられていたのが桜と橘といわれています。平安神宮でも同じように桜橘が植えられているのを今も見ることができます。これにならって、お雛様の様式として桜と橘が飾られるようになりました。

 御所も平安神宮も南向きの建物の左右に植えられており、向かって右が桜になります。手の込んだ造花の桜はほぼ満開ですが、西側に当たる左側にはつぼみを多く配しています。

 こうして、お雛さまには桜橘が飾られるようになったのですが、木目込人形などでは紅梅白梅が用いられることもよくあり、お雛さまにはこのどちらかがその由来に沿ったものであると言えます。

桜と橘

紅白梅

 

節句文化研究会では、こうした 面倒臭いけどなんだか楽しい節句のお話を出前しています。カルチャースクール、各種団体、学校などお気軽にお問合せください。→HP最後のお問い合わせメールからどうぞ

これまで、いくつかの和文化カルチャースクール様、ロータリークラブ様、徳川美術館様、業界団体様、中学の授業などでお話させていただいています。

※この記事の無断引用は固くお断りします。

番外 重箱のスミ 

お雛さまのルール

今回は「重箱のスミ」ではなく、番外編、ど真ん中のお話です。

 雛道具のことを書き連ねてきましたが、少し思うところをつけ加えたいと思います。ちょっとお客様から嫌われるかもしれない部分があるので、お気に障ったらごめんなさい。

 ひな祭りってなんだろう?ってところに立ち戻ります。当たり前ですが「お節句」です。節句とはなにかといえば、季節の節目の行事という方もありますがその中身は「厄除け」であったり「祝い」、「祭り」だったりします。いずれにしても「生きていくための日常」からちょっと離れて、「大きな自然の中で生かされている自分を確認」したり、「ご先祖から今に至る縁(えにし)を振り返ったり」、ときには「浮世の憂さを忘れてパーっとやる」、つまりは「非日常」の日を一年間に何回か設けて、ときどき新たに生きる意欲をわきたたせる日ではないかと思います。柳田国男のいう「ケ(褻)」と「ハレ(晴れ)」です。節句やお祭り、婚礼、成人式などが「ハレの日」の代表的なものです。日常とは違う、華やかなしつらえ、衣装、食事宴会を設けて祝う日のことです。サトウハチローの「うれしいひなまつり」の歌詞にも「きょうはわたしもハレすがた~」とありますね。

 で、近年、お雛さまを「お部屋の雰囲気に合うかどうか」「赤ちゃんのイメージに合うかどうか」を基準に選ぼうとされる若いママがいらっしゃいます。

 お雛さまは日用品ではありません。非日常のハレの空間を作り出すためのアイテムなので、日常のお部屋の雰囲気に合うかどうかはあまり問題ではないのです。むしろ、お部屋の雰囲気を一変させるくらいでないと、ハレの日には似つかわしくありません。だから、お雛さまには真っ赤な敷き物(もうせん)を敷き(この赤にも厄除けの意味があります)、金の屏風をたて、ぼんぼりに火を灯すのです。

 例えば、お雛さまの下には親王台という、きれいな縁(へり)のついた畳の台がなければなりません。おしゃれっぽく見える板の台などに載っているものもありますが、位の低い人は畳に座ることが許されず板の上です。あるいは、なにかのお仕置きのために冷たい板の上に座らされているのでしょうか。木目込などの創作人形なら許される場合もあるでしょうが、いわゆる束帯、十二単などの衣装を着たお雛様は、作る職人も畳の親王台に載せられることを想定していますので、畳のない板に載せるといかにも異様です。

 お祝いや厄除けのためのものは、「縁起」が重要視されます。節句のお飾りには、当然、縁起の悪いものは避けなければなりません。「縁起」はセンスとかトレンドとかとは関係なく、「知識」「常識」によるものです。知らなければ、笑われるだけです。そして、本来、それは扱う者が心得ていなければなりません。結婚式に招待されたら、だれでも着ていくものを考えますし、スピーチで「切る」「別れる」という言葉を使ったら笑われるだけではすみません。レストランでスープ皿に直接口を付けて飲んだら、次からは絶対に誘われません。そうした「場」では、世間一般の「常識」や「ルール」があるのをだれでも知っています。ところが、雛人形はほとんどの場合、お客様は初めて購入するものなので縁起、つまり「ルール」について知らない方が多く、だから作る者、販売する者が気を付けなければなりません。ここで問題なのが、その「作る者」、「販売する者」がそれを意識せず、あるいは知らず、あるいは意識的に「お客様の好みに合わせる」という都合のいい言い訳を用いて、ぬいぐるみと同じテーストでお雛様を販売されることなのです。飾る場所など、物理的な条件が時代によって変化するのには、われわれも対応しなければなりません。しかし、お雛さまの「縁起」つまり「精神」はぶれないようにしないと、日本の文化・伝統としての雛祭りがすたれていまいます。

 そして、ハレの日のためという基本中の基本に思いをいたさないと、縁起だけでなく雛人形がベビー用品のひとつとなって、ほんの数年後、お子様がベビーでなくなった途端に粗大ごみになってしまいます。お客様にとってはとてももったいない、お世話した者にとってはとても申し訳ない、そうしたことにならないよう、あえて申し上げます。ごめんなさい。

連載 重箱のスミ ㊼

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お雛さまはベビー用品ではありません。ベビー服をはじめ、ベビー用品は淡いピンクのふわふわした可愛らしいものがほとんどなので、お客様の中にはそんなベビー用品と同様に、とにかく可愛らしいものをお求めになる方がいらっしゃいます。ベビー服と違うのは、お雛さまはお嬢様の一生を通じて雛の節句に飾っていただくものだということです。五十歳になったお嬢さまが飾ってくれるかどうか、大人になって「ママやおじいちゃんおばあちゃんが私のために用意してくれたたいせつなお雛さま」と、思っていただけるかどうか、ここが一番重要なところです。

多くの方が、数年でお雛さまを飾るのをやめてしまっています。ベビー用品としてお求めになったお雛さまでは、それは致し方のないことです。何万円もしたお雛さまが数年で飾られなくなるのは、私たち人形屋にとってもたいへんせつなく申し訳ないことです。流行のない、ある程度伝統にのっとったお雛さまであることが長く飾っていただけるポイントです。どこでお買い求めになるかにかかわらず、お気に留めていただきたい要点です。

この「重箱のスミ」シリーズは、今年5月3日から始まっています。

お雛さまにかかわる、どうでもいいような、だけど、知っているとちょっと楽しくなるようなお話がいっぱい詰まっています。だれも言わない、だれも書かない、ほとんど知られていない、重箱のスミッコにへばりついたお赤飯の粒のようなことばかりです。一般的なお雛さまに関する知識はどこにでも書かれていますので、あまり触れません。へえ~、ほお~、ふ~んの連続です。見慣れない漢字も多出しますが、我慢してお目通しください。

“お雛さまの” 重箱のスミ 第47話です。

雛道具と掛盤膳揃 ~その四~

  几帳(きちょう)と衣桁(いこう)

(お雛さまに使われる几帳)

 お雛さまの飾りにに几帳が使われていることがあります。今から四~五〇年ほど前は多くのお雛さまに使われていて、その品名を当時発売されたワープロで打つことがよくありました。当時は「きちょう」と打っても几帳が表示されず、「きちょうめん」と打って出た「几帳面」から「面」を削っていました。その作業中に、この「面」ってなんだ?と疑問に思ったのが、この重箱のスミをほじくるようなシリーズのきっかけだったような気がします。

 几帳は神社や、和式の結婚式場などで見ることができます。一メートル五~六十センチ四方のきれいな布が掛けられています。

 衣桁は呉服屋さんで広げた着物が掛けられている、几帳と同じような大きさの枠台のことです。和風の旅館などでは二つ折りになったものも見られます。衣紋掛け(えもんかけ)と呼ばれることもありますが、本来は着物用のハンガーのことです。

 また、几帳は四~五十センチ四方の四角の台に二本の柱が並んで立てられ、その先に横に取り付けた丸棒に、布を通した別の棒を紐で結わえ付けるのですが、衣桁は四角の枠の下部両端に台がついており、竿に通した着物を広げて掛けるようになっています。

 平安時代の御所では近世のように襖で仕切られた六畳とか八畳の部屋がなく、広い板の間に持ち運びできる畳が何枚か敷かれ、その周囲に几帳を立てまわして部屋にしていました。几帳が襖や屏風の役割をしていたのですね。几帳の柱はしょっちゅう手に触れるものなので、丁寧に面が取られています。この丁寧な「面」から「几帳面」という言葉が生まれました。ところが、几帳を見かけるたびに柱を見るのですが、今では几帳面な面取りを見たことはありません。現代ではすべて「丸い」柱ばかりです。名前がついているくらいなので、かつては非常に精緻な面取りが施されていたと思うのですが。

 面をとるというのは、木の柱など直角に削ったままのカドからはどうしてもささくれからトゲが出てケガをしやすいので、そんなことがないようにカドにカンナを当ててささくれが出ないようにすることです。この「面」の取り方にはたくさんの形状があって、「糸面」、「角面」、「丸面」、「銀杏面(ぎんなんめん)」、そして「几帳面」などと名付けられ、これらの面をとるためにさまざまなカンナも生み出されました。これも、すべて大切な人がケガをしないようにという配慮から生まれたものです。さらに、貴人の身の回りのものには面をとった後に漆が塗られ、間違ってもトゲでケガをしないように配慮されています。面をとっていない、塗装もされていないような白木の家具に貴人が触れることはなく、ですから、雛道具にはほとんどすべてに漆を基調とした塗装がほどこされているのです。最近は塗装されていない屏風や台などの雛道具を見かけることがありますが、基本的にありえないものであることを理解していなければなりません。

(几帳)

(衣桁)

 

節句文化研究会では、こうした 面倒臭いけどなんだか楽しい節句のお話を出前しています。カルチャースクール、各種団体、学校などお気軽にお問合せください。→HP最後のお問い合わせメールからどうぞ

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連載 重箱のスミ ㊻

雛人形売り出し中!

人形店もさまざまです。

お雛さまをベビー用品として扱っているお店と、節句飾りとしてのお店ではまったく違います。

当店はお節句(雛まつり)のためのお雛さまの専門店です。

雛人形がお節句のためって、当たり前のようですが当たり前でなくなってきています。

どこが違うのか、お気軽にご覧ください。

お雛道具と掛盤膳揃 ~その三~

 貝桶と行器

貝桶と小さな貝合せの貝(専門店でないと、まず扱われません)

よく混同されるものに「貝桶(かいおけ)」と「行器(ほかい)」があります。まったく用途が違うのに、形が似ているため間違われます。また、両方に「かい」がつくこともその原因になっています。

 まず、貝桶の基本形は八角形なのに対して、行器は丸型です。さらに、貝桶は下に頑丈な足のついた台(皿)がついているのに対し、行器にはなく三本ないし四本足になっています。

 貝桶の用途は「貝合わせ」をいれるためのものです。三百~五百といわれるたくさんの貝合わせをいれるため、たいへんな重さになるので底が抜けないよう台をつけて丈夫になっているのです。基本形は八角形ですが、雛道具では六角形のものが多くなっています。美しい組み紐が掛けられ、貝桶結びという独特の結び方で結わえられます(専門家でないと結べません)。

 一方の行器は、いろいろな道具類や衣装、さらにはお酒や食物も入れたりします。三~四本の足で底が浮かせてあり、湿気を防ぐようになっています。この行器にも紐が掛けられ、行楽など外出の時に長い棒の両端に、二つの行器をかけて運ぶ絵も残されています。「ほかい」の言葉は、外出の時に用いるため「外居(ほかい)」からきているとか、「楽のときの」で行器の字が当てられたとか言われていますが、実はよく分かっていません。

 貝桶はかつては最も重要な嫁入り道具とされ、大名家の嫁入りには貝桶奉行が行列の先頭となり、真っ先に貝桶を嫁ぎ先に運び入れます。町民が所持することはほとんどありませんでしたので、骨董(こっとう)の世界でも滅多にお目にかかれません。

 一方の行器は、骨董品店で見かけることがあります。

 お雛さまにはどちらもよく飾られますが、その用途を知っているとちょっと楽しくなります。

八角形の貝桶(本漆塗り、本金蒔絵)

行器(専門店ではこうしたお道具も単品で求められます)

 

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連載 重箱のスミ ㊺

雛人形売り出し中

 お雛さまには「様式」とそれにまつわる「お話」があります。

お雛道具揃と掛盤膳揃 ~その二~

 「掛盤膳揃付」って?

 

七段飾りのお雛さまをお持ちの方は、お道具の入っている箱を見ていただくと「掛盤膳揃付(かけばんぜんぞろいつき)」とたいてい書いてあります。この「掛盤膳揃」とは、前述の足のついた四角い掛盤膳と三方、菱餅、高杯(たかつき・丸餅)のことを指しています。「掛盤膳揃付」とわざわざ断ってあるということは、「掛盤膳揃なし」があったということです。そうなんです。当家にもあるように、掛盤膳や三方などは、かつては多くのお宅でお節句用に常備されていたので、お雛さまを揃える時に買い求める必要がなかったのです。ひな祭りは節句なので、新しく生まれた女の子のためだけにするのではなく、毎年、どこのお宅でもお祝いをするのでお供えのお道具は常備されていたのです。お正月用の重箱とか、ひな祭り用のお膳、端午の節句用の三方、七夕用の折敷など、かつては節目の行事のためのお道具がどこのお宅にも用意されていました。そういうのを「豊かな暮らし」というのでしょう。

さて、掛盤膳揃以外の残りの御道具類をなんと呼ぶかというと、「嫁入り道具」といいます。つまり、タンス、長持、挟み箱、鏡台、針箱、火鉢、茶道具、布団袋、重箱、牛車(ぎっしゃ)、お駕籠(かご)などのことです。(昭和四十年代ころまでは牛車には黒い牛がついていました。今は、この牛を作る職人がいなくなり、牛のついた牛車を見ることはなくなってしまいました。よって、最近では牛車と呼ばず御所車というようになりました。)まさに、お大名のお姫様が嫁入りのときに持参したお道具のミニチュアだったわけです。手の込んだお道具ですと、タンスや鏡台、針箱のひきだしの中に、細かなお道具が入っていました。小さな着物や、小指の先ほどの櫛、ほんとうに切れる超ミニのハサミ、お化粧道具など大人が見ても胸躍るような細工物です。さらに、お歯黒などのお化粧道具や将棋盤、碁盤、双六盤、几帳に衣紋掛などおびただしいお道具類がありました。ご注文をいただくことがなくなって久しく、いま、ご注文いただいても果たして同じようなものができるかどうか、自信がありません。

七段飾りのお雛道具揃。「掛盤膳揃付」の表示。

右上には「木製品 日本製」の表示も。なんだか不思議です(日本製でない物が多いので)。

タンスや針箱の引出しの中の超ミニサイズのお道具。

上のクシの幅は1センチほどです。ワクワク💛

 

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ただ今お雛さま売り出し中です!

羽子板、破魔弓飾もどうぞ・・・・

 

御道具揃と掛盤膳揃 ~その一~

 一番楽しいお膳と重箱

 

ご飯がてんこ盛り(専門店でないと求められないお道具です)

どら焼きが2個・・・

 

 三方や菱餅のお話をしたので、お膳類のことにも触れなければなりません。

 一般に雛人形のお道具では「掛盤膳揃(かけばんぜんぞろい)」というと、「三方」、「菱餅」、「高杯(たかつき・丸餅)」、「掛盤膳」のことを指しますが、実際のお料理の場面では掛盤膳揃とは、四本足のお膳と食器のことを指します。掛盤膳は四本の足に四角い枠が取り付けられ、畳を傷めないようになっています。他に、「蝶足膳(ちょうそくぜん)」といって、四角の枠のないギザギザした足のお膳もしばしば用いられます。

 写真のお膳(掛盤膳)は昔から当家で使っているものです。ひな祭りのときは、このお膳に実際にお料理を盛って供え、あとでいただきます。ご飯は画像のようにてんこ盛りに盛って、ちょこんと小さな蓋をのせます。他のお椀には、おかずやお吸い物などをよそいます。重箱(これは30年くらい前に買ったもの)にはお料理でもいいのですが、お菓子を入れています。

 お料理を盛っていないときは、掛盤などはこちらを正面に飾っていますが、お料理を盛ったときには、これはお雛さまに供えるものですので向こうが正面になるように飾ります。もちろん、お箸も添えて。(この掛盤は全体にに牡丹唐草の蒔絵が施されており、前後の区別はありません。)

 お椀の並べ方がよく分からない、という方が多いのですが、基本を知っていればむつかしくありません。

 まず、ご飯。これはふつうに手前の左側です。その右側にお吸い物のお椀です。お椀の見分け方が分かりにくいのですが、まず、ご飯は一番大きなお椀に一番小さなふたがセットです。写真のようにご飯をてんこ盛りに盛って、小さなふたをちょこんとのせます。お吸い物はお椀の内側にふたが入ります。これは、ふたについた露がお椀の外側にたれないためです。料理屋さんでもお吸い物のふたは必ずお椀の内側にかぶせられています。

 真ん中に足高のふたのない小さな器。これにはお漬物が盛られます。

 奥の二つはおかずです。汁物ではないのでふたは外側になります。この二つは諸説あって左右どちらでもいいと思います。手前の二つ、ご飯とお吸い物がわかれば、あとは簡単なのです。

 お雛さまも手では食べられませんから、お箸を添えてあげましょう。

 

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連載 重箱のスミ ㊸

ただ今、お雛さま・羽子板 破魔弓飾り 売り出し中です。

◇可愛いだけではもったいない

◇次の世代に文化としてのお雛さまを伝えられないと申し訳ない

◇伝統を謳いながら伝統様式を守っていないとなさけない

そんな気持ちでお雛さまをおあつらえしています。

ちょっと他のお店様とは品ぞろえが違います。

ちゃんとしたお雛さま、生涯お飾りいただけるお雛さま、

どなたに見ていただいても恥ずかしくないお雛さま、

たくさんお揃えしました。どうぞご覧ください。

 

※この連載は、5月3日から始まっています。一般にネットなどで解説されているようなことにはあまり触れていません。まさに重箱のスミ的な、知っていてもあまり役に立ちませんが、お子様に折に触れお話しいただくとおめめがきらりと光るようなちょっと楽しい(かもしれない)事柄です。

三方と菱餅 ~その四~

菱餅

 

お雛様以外では見かけることのない菱餅。なぜ、菱型で三色?、そしてそれがのせられている菱餅専用としか思えない台。

菱とは植物のヒシから来ているデザインです。ヒシは池や沼によく生えていて、実は古来、食用とされています。忍者の使うマキビシのような形をしていて、トゲがあり、中の実は茹でると栗のような味がします。子供のころ名古屋城のお堀に生えているのを採って食べたことがあります。葉っぱはヒシというより四角い感じで、その茎の元の方がふくらんでいてこの部分も菱形に近いかたちです。

菱型は、この実から来ているのか、葉っぱ、または茎なのかよくわかりません。忍者は実際にヒシの実を乾燥させてマキビシにしていたともいわれています。このトゲトゲに厄除けの意味があります。節分にイワシの頭とともに飾られるヒイラギにもトゲトゲがありますね。

菱餅の三色はクチナシ(紅)とヨモギ(緑)で色付けられます。中には五色や七色もあります。この菱餅が菱形なのは厄除けという意味があるのでしょうが、宮中ではお餅が菱形だからそれが広まったと何かの本で読んだことがあります。ずいぶん前のことで、どんな本だったのか思い出せません。宮内庁におたずねしてみたのですが、ご返答がいただけていません。そもそも、宮中で雛人形を飾るのかどうかさえわかりません。戦後の話ですが、ある女王様(女性皇族)から小さなお雛さまが女官におさげ渡しされたという話がありますので、まったく飾られないというわけではないでしょうが、「上巳の祓え」は行われても「ひな祭り」はなさらないのかもしれません。

この菱餅を載せる台は菱餅専用です。菱形の折敷には中に中板(ゲタ)がはめられ、裾広がりの台とセットになっています。前項の三方の菱形バージョンです。この菱餅台はお雛様以外に実用品としては見たことがありません。宮中では普通に菱形のお餅を召し上がられているとすれば、このような菱台に載せられているのでしょうか。

お雛様専用とすれば、考え出した人はなかなかたいしたもんだなと思います。他の丸いお餅の「高杯(たかつき)」や「お膳」類は実際に食器として存在するものをお雛様用に小さくしたものです。

こう考えると、菱餅はお雛様には欠かせないお道具だと言えます。

これはお餅が五色です。   台は三つの部品で構成されます。

 

 

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お雛さま 揃いました。

お雛さま、羽子板飾、破魔弓飾

そろいました!
   

 

お雛さまは

最初はお子様が健やかに育ってほしいという「祈り」、

幼稚園、小学生になると飾ってお祝いする「喜び」、

大人になり更にお歳を召されると、それは「誇り」になります。

そのために、お雛さまは種類を問わず100年くらいは飾れるような

ものでないと申し訳ないと、当店は考えています。

そこで大切なのは、なにをおいても「品(ひん)」です。

「品」とは、つまり「完成度」。

それは確かなデッサン(かたち)と色彩の組み合わせです。

価格の問題ではなく、その価格帯ごとにもっとも完成度の高いお雛さまを

注文し、それに合う雛道具をお揃えします。

どんなお雛さまでも、可愛らしくないお雛さまはありません。

でも、可愛らしいだけでは少しもったいない。

永くお飾りいただくためには、流行にとらわれない普遍的な完成度、

つまり「上品」であることが重要です。

どうぞ、お気軽にご覧ください。

連載 重箱のスミ ㊷

三方と菱餅 ~その三~

 瓶子と口花 ②

 瓶子は胴が太く口が細いので、お酒をそそぐとき「コポコポ」といい音がします。いちどきにどばっと出ることがないようにこのかたちになったのでしょうか、それとも昔のお酒には澱(おり)があったのでそれを避けるためでしょうか。ボルドーワインの張っている肩も、澱を注がないようにそういうかたちになっているそうです。しかし、澱の少ない清酒ができるようになったせいか、酒飲みにはどうでもいいことだったのか、江戸時代には現在のような注ぎやすい徳利になりました。

 お雛さまに用いられるのはほとんどが金属製の瓶子ですが、不思議と端午の節句のお飾りに用いられる瓶子は素焼き製です。端午の節句は雛祭りよりもずっと古い行事なのですが、人形や鎧兜を飾るようになったのは、公家の間で伝えられてきた上巳(じょうし)の節句と違って、近世に武家が中心となって広まったのでそうなったのかもしれません。

 ちなみに端午の節句のときの口花は菖蒲とヨモギです。

 瓶子をデザインした「家紋」(図)があります。ビンのかたちではなく、袋に包まれたデザインです。温めたお酒が冷めないように袋に入れて使っていたとか、ふだんは大切に袋に入れて保管していたためとか言われています。一見、お茶の棗(なつめ)を包む仕覆(しふく)のように見えますね。神社関係の方に多い家紋のようです。

※次回は菱餅のお話です。

 

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三方と菱餅 ~その二~

 瓶子と口花 ①

 三方と言えば、その上に乗っているのが、飾りの花が口に挿してある瓶子(へいし)です。瓶子は銀色の金属製のものが多いのですが、これは錫(すず)の瓶子を表しています。錫は、お茶の伝来とともに茶葉入れとして伝わり、柔らかく、加工が容易なためお酒を入れる容れ物として使われるようになりました。錫は高級品なので一般の瓶子には素焼きの白いものが多く、神社やご家庭の神棚に飾られるものもほとんどが素焼きのものです。中世には木製に漆塗りのものもさかんに作られました。

 中にはお酒を入れ、口花(くちばな)を挿します。口花は一般には熨斗口(のしぐち)とか御神酒口(おみきぐち)と呼ばれ、神社や旧家などではお正月やお節句などおめでたいときに飾られます。

 お雛さまのときに口花として飾られるのは「桃」と「柳」です。上の方の細長く、やや淡い緑の葉っぱは柳で、紅白の花が付いているのが桃です。中国では昔から「桃紅柳緑(とうこうりゅうりょく)」といって、春のもっとも美しいものとして桃と柳が愛でられており、ここからお雛さまにも飾られるようになりました。西城八十作詞、李香蘭が歌って大ヒットした「蘇州夜曲」にも柳と桃が出てきます。NHK朝の連続ドラマ「ブギウギ」にも出てきた服部良一の作曲です。李香蘭は後に山口淑子の名で参院議員にもなりました。

 もう一つ、「桃紅李白薔薇紫(とうこうりはくそうびむらさき)」という言葉が中国の古典「詩格」にあります。この言葉から、画家・篠田桃紅は名付けられたと言います。ここでは桃の紅、スモモの白、バラの紫が美しいものの例えとなっています。この桃紅さんは、「努力で得られるものなどたいしたことはない」と言っています。昨今の、努力すればなんでも叶うという流れとはまったく違います。天賦の才能と努力があれば、多くのことは実現するかもしれません。しかし、どんなに努力してもだれもが大谷選手になれるわけではありません。まず、あの身体がなければ無理なのです。身長が低い女性がどんなに望んでも、スーパーモデルになれないのと同じです。身体だけでなく、だれでも身に備わった能力というものがあります。それは十人十色で、その備わった能力を活かす努力をしなければ大きな成果を得ることはできないということを言いたかったのかもしれません。(もう一つ、深読みですが、たぶん、彼女の途方もない努力をご自分では努力と思っていなかったフシがあります。書や絵が好きで好きで、そのための努力は努力ではないと思っていたのでしょう。)

 口花に桃と柳が表現されているものは少なく、桃というより赤い梅のようなものだけのことがほとんどです。お雛さまを飾る意味合いとしては重要な部分なのですが、あまり顧(かえり)みられません。最近は口花でさえなく、なにかよくわからないものが置かれていることが多くなりました。「伝統的な」とか、「有職」、「様式」を謳うならば見逃すことのできない部分なのですが。

 ほんとに重箱のスミ的なことがらです。

画像ではわかりにくいのですが、薄緑の細長い柳と、濃緑で丸みのある桃の

二種類の葉が表現されています。

 

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